東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)206号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 原告は審決の認定判断のうち第二引用例の「切断部を段部とすることに困難性が認められない」との点を争つている。
ところで、成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本件発明において深絞り工程により形成された傾斜状段部を有する製品も有底管であると認められるから、後記争いのない事実に照らして考えれば、右の争点は、第二引用例記載の次第に拡径させた開口部を有する有底管をダイス(雌型)に入れ、ポンチ(雄型)の直角状段部を有する刃とダイスの刃により右有底管の拡径している縁を切断する方法において、前記有底管を傾斜状段部を有する有底管に代え、前記ポンチの刃を右有底管の傾斜状段部に適合する傾斜状段部を有する刃に代えて、右ポンチとダイスによる右有底管の段部基端を切断する本件発明を推考することが容易であるか否かに関するものであるということができる。
二 そこで、右の争点について判断する。
1 本件発明と第二引用例記載の発明の構成及び作用効果に原告主張(請求原因四1(一)ないし(四))の差異があることは、前叙のとおり当事者間に争いがない。
2 しかして、当事者間に争いのない第二引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によるも第二引用例には傾斜状段部を有する有底管を右段部に適合する傾斜状段部を有するポンチによりその段部基端より切断する本件発明の技術思想を示唆する直接的な記載を見出すことはできない。したがつて、第二引用例記載の発明の「切断部を段部とすることに困難性があるとは認められない。」と認定したうえ、本件発明が第一、第二引用例から直ちに容易に発明できたとした審決の判断は首肯することができない。
3 そこで、被告主張の周知技術を併せ考えれば、審決の右判断を首肯するに足りるか否かについて判断する。
(一) 成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、右乙号各証はポンチによる有底管開口部の切断技術が記載されているが、そのポンチ及び有底管はいずれも傾斜部を有するものの傾斜状段部を有していないものと認められる。したがつて、乙第一、第二号証の切断技術自体が本件特許出願前周知であつたとしても、右技術は傾斜状段部を有するポンチにより右段部に適合する傾斜状段部を有する有底管を段部基端から切断する本件発明の技術思想を示唆するものではないことが明らかである。
(二) 成立に争いのない乙第三号証の一ないし一一、第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし一〇、第六ないし第九号証によれば、(イ)乙第三号証の六(文献名、図書館受入又は発行年月日は被告主張のとおり。以下同じ。)の一・一図記載のポンチは先端に丸みを有するものの傾斜状段部を有しておらず、被加工物も板であつて穴抜き加工に使用されるものであること、(ロ)乙第三号証の一〇の図三、第四号証の三ないし五の図一一ないし一四、第五号証の八の図一、第六号証の九五八頁の図一〇、第七号証の三六頁の図三には傾斜状段部を有するポンチが記載されているが、いずれも板の穴抜き加工に使用されるものであること、(ハ)乙第八号証の三八頁の図一一には傾斜状段部を有するポンチが記載されているが、右ポンチは有底管のしごき加工の際にその開口端をテーパー状とするために使用されるものであること、(ニ)乙第九号証の図九には傾斜状段部を有するポンチが記載されているが、それは板の打抜き又は穴抜きに使用されるものであることが認められる。
このように、以上の乙号各証には(イ)を除き傾斜状段部を有するポンチが示されているが、いずれも金属板の穴抜き加工か((ロ)、(ニ))、有底管の開口端の内側のテーパー状形成に用いられるものであつて((ハ))、有底管開口部の切断用のものではない。したがつて、仮に右乙号各証により、本件特許出願前、傾斜状段部のあるポンチが当業者間に周知であつたことが認められるとしても、右乙号各証の各文献には、製品(本件発明では有底管)側にポンチの傾斜状段部と適合した傾斜状段部を設ける技術思想は示唆されていないことが明らかである。
(三) 以上のとおり、被告提出の乙号各証を斟酌しても、審決の前記判断は首肯するに足りない。
四 そうであれば、審決の前記判断は誤りであり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取消を免れない。
よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
「傾斜状段部を有する丸形押型杆でもつて素材板から上部に前記段部を適合する段部を備えた絞り製品を形成する深絞り工程と、前記製品をダイスに取付け、その製品内に嵌挿し該製品の前記段部に適合する傾斜状段部を有するポンチでもつて製品の段部基端より切断する切断工程とよりなるアルミ電解コンデンサー用容器の製造方法。」(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>